日本に不慣れな韓国人ビジネスマン、努力・努力の転職。

No.615
  • 現職

    東証一部上場 自動車部品メーカー  海外営業職

  • 前職

    食品製造装置メーカー  海外営業職

金 一 (キム イル) 氏 33歳 / 男性

学歴:カナダ トロント市立 ジョージブラウンカレッジ ファッションデザイン科 中退
TOEIC 960点
DELF A2 (フランス語能力検定 初級)
日本貿易実務検定 B級
日本語能力検定 一級

目次
  1. 始めに
  2. 以前の会社への入社経緯
  3. 転職を考えた理由
  4. 転職を決心してから
  5. 転職活動
  6. 面接
  7. 退社
  8. 終わりに

始めに

私は日本人と結婚した韓国人です。
2009年1月日本に来ましたが、それまでは日本に住んだことも、留学したこともなく、日本の社会や文化についての知識も殆どありませんでした。
学歴は大学中退です。日本に来る前はカナダで4年半間留学していましたが、実際には学費捻出のためのアルバイトの時間が多く、またその間今の妻と出会い、準備も何もない状態で結婚しました。
結婚して子供が出来、初めてキャリアの必要性を感じ、カナダや韓国よりは、経済大国と呼ばれる日本の方がチャンスが多いと思い、日本語能力検定1級資格とTOEIC 930点を取って日本に来たのです。
しかし今考えてみれば、当時の私は、学歴も社会経験もない、29歳の外国人、それだけでした。

以前の会社への入社経緯

日本に来て初めて冷厳な現実が分かりました。
先ず、日本語能力検定1級とはいえ、日本に住んだことがなかったため、きちんとしたコミュニケーションがほぼ不可能で、妻以外の人と話すことに恐怖感を感じるほどでした。
更に、日本のビジネスマナー (正確にはビジネスマナーそのもの) も全く知らず、人材紹介会社から登録を拒否された経験もあります。
仕方なく、必死になって日本語の勉強をしながら、ハローワークの外国人専用サービスに登録して仕事を探しました。そして3か月が経った2009年4月、運良く産業用機械設計を主体とする中小メーカーに海外営業職として入社、ようやく社会人としての一歩を踏むことが出来ました。

転職を考えた理由

最も大きい理由は、やはり未来についての不安でした。
従業員40人程度の零細企業としては、競争の少ない狭い業界で数十年間安定的に成長して来られたという感じですが、国内の関連市場はもう飽和状態で、これ以上の成長は期待出来ないと判断されました。更に、数年前から不況のせいで大手機械メーカーの同業界への参入が増えつつあり、シェアが段々小さくなっている状況でした。このような難局を突破するために、より積極的に海外へ進出しようという声も高かったですが、個人的な評価としては、不安要素ばかり考えて、実行力が足りない印象でした。

また、英語が “堪能” と言える人間は社内に私一人しかいなかったため、海外の “か”の字でも入る仕事は全て私に回って来たので、業務上の負担が日に日に増えていましたが、それについてプラスαで評価されていないとの不満もありました。
二人の子供を持つ父親として、不安と不満を抱えて、不透明な未来へ進むことは出来ないと判断し、出来るかどうかは分りませんが、年齢的に遅くなる前に転職、出来れば大手企業への転職に挑戦してみる決心をしました。

転職を決心してから

先ず、転職について概略のスケジュールを立てました。
私の場合、早いですが入社してその翌年転職を決心しました。ただし、周りから、いくら辛くても一つの会社に3年間はいないと認められない、むしろマイナス要素になるとの話をよく聞きましたので、転職を決めた時点から2年間しっかり準備して、3年になる時点から実質的な転職活動に入ることにしました。
準備期間を2年間と設定してからは、何を準備すべきかについて考えました。
学歴、言語を含め外国人としてのデメリット、年齢に比べてあまりにも短い社会人経験等、このままでは書類審査での脱落が目に見えていたので、これらを挽回出来る武器、つまり、欠けているところも多いですが、“その代わりに〜” と言えるようなスキルと能力が必要な訳です。現実的に自分に出来ることを考えました。

その第一として、当然のことですが、同年齢の日本人の社会人と同じレベルの日本語能力と文章力を身に付けることが先ず大切と判断しました。特にメールや報告書等、文章だけを見た時、外国人と気付かれないほどの完璧さを目指し、仕事の中に日本語の勉強を入れ込みました。文章力のある上司の書いた文を何度も読み直し、その書き方を真似しながら改善を重ねました。業務上、外部とのやりとりが多かったため、仕事そのものが勉強だったとも言えます。

第二は、学歴と経歴上の弱点をカバー出来るような、客観的なスキルを身に付けること、つまり、採用側の目を引けそうな何かを見せることでした。先ず、TOEICは満点 (990点) を目標としました。最近は900点以上の人もかなり多いため、語学力を武器とする人なら、やはり満点、最低でも950点以上でないと採用側の目を引けないと思いました。
次は、日本の貿易関連資格を取得することでした。担当業務と関連しているためでもあり、外国人として日本語の能力を証明出来るという、一石二鳥の効果が期待出来ると思われたので、日本貿易実務検定B級以上の取得を狙って勉強することにしました。

最後に、日本語、英語、そして母国語の韓国語まで、3か国語が出来るとはいえ、実際には日本の社会で韓国語は外国語としてのメリットが大きくないため、英語と共に国際公用語として使われるフランス語を勉強し、関連資格を取ることに決めました。フランス語の場合、先ず希少性があり、アフリカ大陸で数億人の公用語として使われている言語のため、これからのキャリアに必ず役立つと思いました。また、4か国語が出来るとのことで採用側の目を引けると判断したのも理由の一つです。

そして、2011年1月1日を起点として本格的に勉強を始めました。
毎日、子供たちを寝かしつけてから、夜中2〜3時間勉強を続けました。家族の将来がかかっていると思うと、仕事で大変だった日も勉強を休むことは出来ませんでした。
その結果、2012年7月に日本貿易実務検定B級とTOEIC960点を、10月にはフランス語能力検定 (DELF) 初級資格を取ることが出来ました。

転職活動

資格取得等の準備を終えてから、また数か月間かけて職務経歴書と履歴書を用意し、それから人材紹介会社を決めました。(株)エリートネットワークを選んだ理由は、転職準備期間中ネットで色いろ情報を集めていた時、中身が最も充実している印象を受けたから、また、社名にエリートが入っていてなんとなく気に入った (笑) からです。

履歴書と職務経歴書を送り、連絡を待ちました。4年前、人材紹介会社から登録を拒否された経験がトラウマとして残っていたため、かなり不安もありましたが、幸いに転送してから2〜3日後に、転職カウンセラーの岩川さんから連絡を受け、カウンセリングのアポを取りました。そして転職を考えている理由、やりたい仕事、やりたくない仕事等々について答えられるように準備をし、銀座にあるオフィスを訪れました。
カウンセリングは、私にとっては緊張そのものでした。岩川さんは面白い雰囲気を出しながら鋭い質問を連発し、その時思ったのは、“この人に嘘は通じない” ということです。しかし、人の話をものすごくよく聴いてくれる、本当に耳を澄ましてくれるとの印象が最も強かったです。

私の希望していた内容は、基本的に、[1] 語学力を活かせること、[2] 海外出張、出来れば駐在のチャンスがあること、[3] 機械系でないことの3つでした。岩川さんは外資系企業も勧めてくれましたが、外資系になると、日本現地法人のため、基本的に日本国内の仕事に限定され、海外出張や駐在のチャンスが殆どないと思われるので、希望しないと説明しました。岩川さんはそれについて私を何とか説得しようとしないで、“分かりました” の一言だけでした。
約2時間のカウンセリングが終わり、岩川さんから企業リストを頂きました。
リストの中には、自分の目を疑うほど夢のような企業が、何十社も載っていました。
“何社でもいいですよ。応募したい企業があれば教えて下さい。”、と言われ、カウンセリングが終わりました。オフィスを出て、4年前に比べてかなり成長したことが実感出来て、また、やってきた努力に意味があったことが再確認出来て、本当に嬉しかったです。

それから家族と相談し、何社か応募しました。書類審査の結果を待っている途中にも、岩川さんはアンテナを立てて、新しい求人案件の紹介も続けてくれました。
そしてカウンセリングから約3週間後、規模や仕事の内容の面で私の希望にぴったり合う企業から一次面接の通知を受けることが出来ました。

面接

当然のことですが、大手企業の面接経験はなかったので、岩川さんにアドバイスを求めたら、予想質問と答え方についての資料と、その企業の最近の新聞記事を送ってくれました。それと同時に、電話で、[1] ホームページや新聞記事をベースにその企業についてしっかり勉強しておくこと、[2] 質問を多くすること、[3] 出来るだけ共通の話題を見つけて、気楽に “対話” をするような雰囲気を作ること、の3つのアドバイスをしてくれました。
幸いにも、面接官2人の中1人がアメリカ留学経験者だったので、“留学生活” という話題で話が盛り上がり、いいかどうかは別にして、すごく楽しい雰囲気の面接になりました。
そのお蔭で緊張も解け、むしろいつもよりうまく話せたと思います。

しかし、2次面接は失敗してしまったと思います。
役員面接ということで緊張し過ぎてしまい、自己紹介から頭が真っ白で、自分が何をしゃべっているかも分からないくらいでした。ただし、質問の時間に色いろ質問し、“いい質問しますね。” と言われましたので、それで少し挽回出来たのではないかと思います。企業について勉強し、形式的な質問でなく、中身のある濃い質問、例えば最近の経営状況や将来のビジネス展開の悩み等について質問することは役立つと思います。

退社

誰もが同じと思いますが、最も悩んでいたところです。
特に、一応 “積極的な海外へのビジネス展開” を目指している会社なので、私の仕事の比重や範囲を考えると、簡単に “来月辞めます。” とは言えない訳です。
したがって、円満退社は先ず無理だと思いました。当時関わっていた仕事 (全ての海外関連業務) の内容も深かったし、会社の立場から見れば “裏切る” という風に思われるかも知れないと思ったからです。しかし、自分と家族の将来を考えると、内定が決まった以上、私情を捨てて前向きに、上向きに進めるために覚悟を決めるしかないでしょう。

私の場合、色いろ考えて、2ヶ月前に退職願の意志を表明しました。先ず上司に相談し、退職を願う理由と、大手企業への内定が決まったとのことを素直に告げました。
それからは意外と、会社との摩擦は一切なく、むしろ励ましてもらい、円満退社という形にまとまったため、最後まで楽しく仕事が出来ました。
当然のことですが、やはり “どうせ辞めるから” という気持ちでなく、会社のことを出来るだけ考えて行動し、その気持ちが伝われば、良い結末に繋がるとのことが分かり、大きく勉強になりました。

終わりに

私は20代を無意味に過ごしたせいで、大きなハンディーを持った状態で転職活動をスタートするしかありませんでした。それらハンディーを克服出来る方法はなさそうに考えられ、一時期は、現状に満足しようと、どうせ出来ないと、自分を説得しようとしたこともあります。
しかし、何百回、何千回考えても、不安と不満を抱えたまま生きていく自信はありませんでしたし、もし失敗したとしても、準備をするだけでも自己啓発になると判断し、心を決めました。それからずっと、“人事を尽くして天命を待つ。” という言葉を心に刻んで、不安や諦めたい気持ちを抑えたのです。過去のことは仕方ないので、これからのことに集中し、人より倍以上の努力をするしかないと思いました。それをアピール出来る一番客観的で現実的な方法は資格だと思ったため、目標を設定し、着実に実行していきました。そして、天命を待っていたのです。

実際に、転職カウンセラーの岩川さんに出会ったのが天命だったと思います。普通転職の場合、垂直移動というのは難しく、特に従業員50人未満の零細企業からいきなり何千人もいる大手企業に転職することは、技術系でないとほぼ不可能に近いと聞いていました。更に私の場合は学歴と社会経験不足という2つの致命的なハンディーを持っていたので、希望通り行けるとはあまり期待していませんでした。しかし、私の希望に不思議なほどぴったり合う企業と結ばれた切っ掛けは、運が良かったとも言えると思いますが、私のハンディーよりは、やってきた努力を、可能性を分かってくれる人と出会ったのが最も大きいと思い、心から感謝しております。

過去も大事ですが、未来の方がずっと大事です。転職活動を通じて、過去のことに縛られて勇気を失ったり、やる気を無くしたりする必要は一切ないとのことを再確認出来ました。冷静に、そして前向きに考え、プランを立て、誠実に実行していけば、必ずチャンスは訪れると信じております。
最後に、私の持っていた大きなハンディーにも拘わらず、私を受け入れて下さった、そして、より広い世界への扉を開けて下さった(株)エリートネットワークの岩川様に、もう一度心からお礼申し上げます。

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