
有機合成化学、高分子化学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーを基盤とし、これらの技術を融合することで、繊維、フィルム、ケミカル、樹脂、電子情報材料、炭素繊維複合材料、医薬・医療機器、水処理など、多岐に亘る分野で先端材料を開発・事業化しています。(本社ショールーム)
企業のスタートからお話ししますと、1926(大正15)年の1月に工場の認可が下り、4月からレーヨンの生産を開始しています。レーヨンは天然素材から作られる再生繊維で、当時は独特の光沢と柔らかい肌ざわりが人気で、婦人服などに用いられました。
その後、高分子化学や有機化学をベースに繊維事業を拡大し、1950年代から1960年代には3大合成繊維(ナイロン、ポリエステル、アクリル)の生産体制を整え、衣料用途から産業資材用途まで、幅広い分野でグローバル事業を展開していきます。
1970年代以降は、バイオテクノロジーやナノテクノロジーも融合して樹脂やフィルム、炭素繊維複合材料、水処理膜など付加価値の高い化学品を強みとして事業領域を拡大。これらはいずれも、1960年代から地道に研究を積み重ねてきた成果です。
東レらしい研究開発のスタンスとして、「超継続」「極限追求」といったキーワードが挙げられます。なかなか成果に繋がらずに同業他社の多くが研究をストップしてしまうような分野であっても、粘り強く研究開発を継続してきています。
社内には「深は新なり」という言葉もあります。「一つのことを深く掘り下げていくと、新しい価値が見えてくる」という考え方で、こうした姿勢は東レのDNAであると言えます。
素材ビジネスは一般に景気動向の影響を強く受ける業種です。1980年代後半には繊維不況もありましたし、2008年のリーマンショックの影響も小さくありません。時期によっては、厳しい経営局面でも研究開発への投資は縮小しない方針を堅持し、全社一丸で乗り越えてきたのが正直なところであると思います。
研究部門のトップの言葉を借りると、東レは創立から1970年くらいまでは高分子材料の開発で事業の礎を築き、そこから素材の機能や加工度を向上させてきました。そして、2000年の少し手前からは社内に蓄積している「技術の融合」に取り組み、2003年には鎌倉市に「先端融合研究所」を新たに開所。2010年以降は融合に加えて社内外との「連携強化」を打ち出して事業を展開しています。2019年には大津市の滋賀事業場に「未来創造研究センター」を設置し、オープンラボなどを設けて社外とも接点を持ちながら研究開発を推進しています。
お客様とパートナーシップを組むことによるグローバル市場の開拓は、以前から積極的に取り組んでいます。世界各国で運行されていた旅客機「ボーイング737」の二次構造材に、東レの炭素繊維が最初に使われたのは1975年でした。
その後、1990年には主翼などの一次構造材に認定され、2006年には新型旅客機「ボーイング787」への炭素繊維複合材料の長期供給に関する包括的正式契約を締結しています。
ユニクロの「ヒートテック」や「エアリズム」、「ウルトラライトダウン」などの機能性衣料の素材も、東レが提供しています。ユニクロとは2006年に「戦略的パートナーシップ契約」を締結し、これら機能性素材の継続的な改善を重ねています。このような共同開発において、パートナー企業と密接に連携できるよう、ニーズに即応できる専任の組織体制も構築しています。
また、2026年からは新しい中期経営計画がスタートしますから、現在社内で様々な議論を進めているところです。ここ3年間の利益を見ますと、事業全体では必ずしも計画通りに推移していない領域もあり、社内では今「もっとイノベーションを起こしていかなければ」という意識が高まっているように感じています。
今後の成長が期待される領域の一つが、次世代クリーンエネルギーのカギを握る水素関連ビジネスです。水素のサプライチェーン全体を視野に、引き続き東レの先端素材の付加価値を高める研究開発を進めています。
東レは創業期から人を大切にする会社でした。二代目会長の辛島淺彦は「工場は人間修養の場である」という言葉を残し、人を育てることで社会への貢献を目指しました。現在ではこれを「人を基本とする経営の深化」と定義していて、すなわち多様性に富み、変化に対応できる人材の採用と育成こそが東レの人事戦略の軸であり、企業文化の美風であると解釈しています。
戦略の柱は3つあり、①多様な人材・価値観を受け入れ、②変化に適合できる人材育成と組織づくりを進め、③東レの理念への共感と働きがいのあるキャリア形成ができる環境を整備することです。つまり、ダイバーシティと人材ポートフォリオを確立し、エンゲージメントを高めていく取り組みになります。
新しい価値を生み出すプロフェッショナル人材を育成し、プロがいきいきと幸福に働くことができる環境を整備しています。
東京・大阪本社・国内5支店・13工場(従業員合計7,010人)、国内関係会社113拠点(10,452人)、海外関係会社195拠点(30,452人)が東レグループを形成しています(2025年3月末現在)。
実は私が入社した頃は、社内にそのような雰囲気がかなりあったのですが、最近は挑戦しにくい環境になっているのでは、との意見があります。業務において絶えざる挑戦が求められることは変わりませんので、社員一人一人の意識レベルのわずかな変化にも経営陣は危機感を抱き、2023年から新たな取り組みを始めています。
その一つが、経営陣が全国の拠点を訪れて若手社員と対話し、リアルタイムで社内に動画配信する「リアルトーク~みんなの声~」です。さらに2025年度からは、社長の大矢光雄と7、8名の若手社員が率直に意見を交換する「ラウンドテーブル」という新たなコミュニケーション機会も設けています。
ラウンドテーブルは事前に構成原稿を一切作らず、全くのフリートークで実施しています。若手社員が率直に「社長、私はこう思っています」と話すことを起点に、有意義な対話が生まれています。社員が自ら会社のことや仕事のことで主体的に意見を述べ、これに対しトップに真正面からしっかり答えてもらうという体験は、社員の意識改革、もっとアグレッシブに挑戦していく姿勢を持つことにつながると手応えを感じています。
キャリア人材に求めているのは幅広い分野の専門性です。事業領域別にお話しすると、繊維事業の領域は比較的新卒から人材が育っていますので、樹脂やフィルムなどの機能化成品、炭素繊維複合材料などの新事業領域にプロフェッショナル人材を求めています。高度な専門性と実績を有する人材には、役員待遇の専門職「エグゼクティブフェロー」「シニアフェロー」として任用する「フェロー制度」もあります。
また、化学品の製造プロセスや設備を設計・開発するプラント/プロセスエンジニアリングや機械・電気の技術者にも活躍頂けるフィールドがあり、キャリア採用のボリュームゾーンとなっています。そして、工場を含む全社でDX推進を担って頂く人材も需要が高く、SI企業やITコンサルタント会社での幅広い実務経験に期待しています。
それぞれの領域で専門性とは別に、社長の大矢が「フルスイング」という言葉で表現しているように、「挑戦する人」を求めています。旺盛なチャレンジ精神がなければ、正直に申し上げて、東レで様々な困難や課題を乗り越えていくのは難しいかと思っています。
先ほども触れましたが、新事業を想定してプロジェクトが動き出すと、部署を横断して異なる専門性を持ったメンバーが集められます。そこからインキュベーションを促進し、可能であれば新事業に育てていきます。みんながフルスイングできるように、ワンチームとして迅速に結束してチャレンジしていくのが東レ流の仕事の進め方です。
例えば、医薬の研究に従事していたケミストが他事業の開発テーマを支援することも珍しくありません。繊維、樹脂、フィルム、複合材料など、それぞれの事業単位で研究を深めながら、必要に応じて横串を刺して新しいチームを組成します。柔軟なチームアップができるのは、分断されていない研究開発体制の良い面が出ていると感じています。
また、フルスイングは求めても、「空振りしてもいいから」とも言われます。上席の社員は、たとえメンバーが空振りしたとしても、そのフォームが正しかったかどうかをきちんと見てくれています。
言葉を変えると、消極的な受け身の姿勢ではダメと言うことですね。自分の意見や意志をしっかりと持ち、それを周囲に伝えられないと何も進まない。この姿勢は「ラウンドテーブル」で若手社員に求められる行動特性と共通しています。
大学では経済学部の統計学ゼミで学び、1992年に新卒で入社しました。最初に本社の人事部で新卒採用を半年ほど手伝ってから、愛媛工場に赴任。労務全般に携わり、その後のキャリアもHR領域を中心とした配属が続き、これまでに合計16部署を経験しています。
私の経歴は異動が多く、キャリア入社の候補者の皆さんにあまり参考にして頂く必要はありません。「現状維持は後退の始まり」というのが座右の銘で、次々に新しい環境に飛び込んできました。
着任1年目に自分の目でその組織をしっかり見て、2年目に改革に取り組むという流れが多かったと思います。その結果、工場2拠点、国内関係会社2社、海外勤務も2回経験し、2度目の海外勤務は4つの関係会社の取締役を務めていました。本社部門では採用、評価、配置、労務、組合対応まで、HR機能のほぼ全てを経験してきました。
キャリアの過程では、業務の周辺も含めて様々な資格取得にも取り組みました。
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー、基本情報技術者、衛生管理者、簿記などですね。8年目に初めての海外勤務でインドネシアの関係会社に赴任した際には、インドネシア大学でインドネシア語を学ばせてもらったこともいい思い出となっています。
5年近く過ごしたマレーシアでは、関係会社4社の経営に参画しました。多民族国家ですのでダイバーシティに富むメンバーが集まっている中、東レらしい経営をより浸透させようと取り組みました。給与計算などのHR業務に新システムを入れたり、アナログ業務の多かった繊維事業のシステム化を図ったりしました。コロナ禍で外出が制限された時期には、マンション敷地内や階段でひたすらランニングするなどで心身のコンディションを整えました。
その後、2021年の12月に東レ最大の工場であり、研究開発の重要拠点でもある滋賀事業場に赴任しました。こちらは労務、総務、経理を統括する立場で事務部長を務めました。東レ創業の地でもある滋賀事業場は国内外からの来客も多く、拠点のトップである事業場長とともに企業市民としての渉外対応にも多くの時間を割いていました。また、「人を基本とする経営」の延長線上で、約250世帯に及ぶ社員寮を新設するプロジェクトにも注力しました。
そして2023年の4月、本社に新設された人材開発・企画部の部長を拝命し、現在に至ります。
人材開発・企画部は東レの人的資本経営を推進するために設置された部署であり、人事部、勤労部、東レ総合研修センターに加えて、現場の若手リーダーを育成する東レ専修学校、経営目線で事業成長の課題解決をHRの側面からサポートするHRBP(Human Resource Business Partner)といった人事勤労部門内の各部のとりまとめを行う組織です。
東レが目指す「人を基本とする経営」を実現するため、社内のHR組織を横断して取りまとめ、新しい施策を作っていくことがミッションになります。この2年間で、先ほどお話ししたダイバーシティ、人材ポートフォリオ、エンゲージメントからなる人材戦略を策定したり、そのKPIを定めて社内外に公開したりといった取り組みを一つ一つ積み上げてきました。
大矢社長による「ラウンドテーブル」などのインナーコミュニケーションも、人材開発・企画部の発案で進めています。役員の360度評価なども企画しており、これまで以上に風通しの良い経営体質を目指して、組織風土の改革を進めていきたいと考えています。
東レはグローバルな素材メーカーであり、「素材には社会を変える力がある」と確信して企業活動を積み重ねてきました。東レグループのサステナビリティビジョンにも、革新技術・先端材料の提供により、世界的課題の解決に貢献することを明記しています。
その意味からも、「自分の専門性を活かして社会を変えたい」「世界の様々な課題を解決したい」といった想いを抱く人材、チャレンジ精神の旺盛な人材と一緒に仕事がしたいと思っています。
挑戦する姿勢を持った専門性の高いプロ人材を求めている私たちですが、100年に及ぶ歴史を持つ一部上場企業であり、業務そのものはホワイトな環境で取り組めることを付け加えておきます。給与や福利厚生に関しても、同業他社を上回る水準を提供し、名実共に人を大切にする経営を実践しています。新しい仲間と東レの新たな事業を創出する日を楽しみにしています。