自社について説明する時、これまで私たちは「外航海運を中心にした総合海運企業です」と話してきました。事実、商船三井の140年近い歴史の中で、常に外航海運 ――船を使ってモノを国際間で運ぶビジネスが事業の中心にありました。現在も、鉄鉱石などの資源や多種多様な乾貨物を輸送するドライバルク船、エネルギー輸送を担う大型タンカーやLNG船、自動車を輸送する自動車専用船など、常時およそ800隻の船をグローバルに運航しており、これがまずイメージして頂きやすい商船三井の姿であると思います。
一方で、海運ビジネスの軌跡を振り返ってみますと、経済成長とともに「変化」を重ねてきていることが大きな特徴であると言えます。例えば、戦後の高度経済成長期から1980年代まで、商船三井は日本に原材料を運ぶと共に製品を海外へ運ぶインフラである海上輸送網を拡充していく役割を担っていました。その後、1990年代に入ると、日本の製造業各社は海外に生産拠点を設けるようになり、海外の生産拠点から別の国々へと製品を運ぶ新たな三国間貿易の需要が拡大します。更に2000年代には、中国を中心に東南アジアの新興国が経済成長を加速させ、私たちもよりグローバルな体制で航路や運航形態を見直し、船隊規模を強化していく時代を迎えました。
わずか30年余りの間に、日本経済の成長だけでなく、グローバルな視野で各国の経済成長を支えるために、商船三井のビジネスモデルは変化を重ねてきたのです。
気候変動問題への対応が世界的な潮流となり、それを受けたお客様のニーズの変化や業界に対する規制の強化が進展する中、重油を主な燃料として船を動かしてきた海運業は、極めて大きな変革の時を迎えていると言えます。世界の産業界が温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)のネットゼロ*実現に向けて動き出す中、私たち商船三井も2021年6月「商船三井グループ 環境ビジョン2.1」を策定し、「2050年までにグループ全体でネットゼロ・エミッション達成」を掲げました。
最新の経営計画では、代替燃料船隊の整備と低・脱炭素エネルギー事業拡大を「環境戦略」の二つの柱としており、前者では、重油に代わるクリーンな代替燃料の導入に向けたLNG燃料炊き新造船の継続的発注を、後者ではLNG船やアンモニア船、洋上風力発電事業への投資継続といったことを掲げています。その他にも、帆船の仕組みを現代に応用した省エネ技術の展開、効率運航の徹底など、様々な取り組みを本格化しています。そして、海運業で培った技術や設備を活用し、クリーンエネルギーのサプライチェーンにおける広範囲での貢献を目指しています。
海上荷動きは、今後も世界の経済成長に伴って増加し続けると考えられ、海運業は成長産業と言えます。一方で、海運業全体の成熟化が進んでおり、当社は、今後も世界経済の成長を取り込んでいく為に、従来以上にグローバルなフィールドで世界の様々なプレーヤーと競争してくことになります。そのような状況の中、在来型の海運業の収益変動を補う上でも、当社はポートフォリオ戦略を進めており、海運業を軸にしながらも事業の枠を広げ、「非海運事業」を当社事業の柱の一つに育てるべく積極的な投資を行っています。そこでは、これまでに培ってきた当社グループの強みを活かしやすい領域で、グローバルに価値を提供する戦略を推進しています。
具体的には、海運ビジネスと接点を持つ海洋関連事業や、港湾・倉庫・ロジステイクスなどの物流事業、それらの物流基盤とも密接な関係がある不動産事業といった領域です。幅広い社会インフラ事業をグローバルに展開する事で、総合海運企業から、「海を起点とした社会インフラ企業」への転換を進めています。
*GHGネットゼロ:地球温暖化を抑えるため、産業部門からの温室効果ガス(GHG)の排出を削減し、森林などが吸収できるGHGと差し引きゼロにする国際的な取り組みのこと
当社の経営計画「Rolling Plan2022」で大きな柱となっている環境戦略、ポートフォリオ戦略、地域戦略が事業領域の拡大戦略にも深く関わってきます。
海を起点とした社会インフラ企業として、輸送に留まらない事業分野にも注力する中、洋上風力発電事業や海洋関連事業の他、物流、不動産事業といった「非海運事業」の強化に向けて取り組んでいます。また地域的には、中国からインド・中東を含むアジア地域を重点地域と位置付けました。これらの地域では、相対的に高い経済成長を期待でき、当社がこれまでに築いたビジネス・ネットワークを活かす事ができます。
不動産事業については、当社グループで、日本やアジアで不動産開発実績を持つ老舗デベロッパー、ダイビル株式会社をTOB(株式公開買付け)によって2022年4月に完全子会社化しました。商船三井グループの総合力をより高め、従来からの同社の強みである国内事業の成長投資のみならず、海外での不動産事業拡大にもつなげていく方針です。
従来、船の燃料として使われてきた重油は、化石燃料の中でもCO2の排出量が最も多く、環境への負荷が高いという課題がありました。世界の海運業界はこのことを重く受け止め、重油に代わるクリーンな代替燃料の導入を目指し、各社が取り組みを重ねています。
商船三井では、LNG(液化天然ガス)を燃料として使う船を順次増やしています。LNGは硫黄酸化物(SOx)をほとんど排出せず、窒素酸化物(NOx)やCO2の排出も相対的に少量となる特性があるからです。脱炭素化の過程において、LNGはエネルギーシフトの移行期間に於ける重要な燃料と言えます。更にその先には、アンモニアや水素など実質ゼロ・エミッションの次世代燃料の利用を目指していますが、実用化には中長期的な研究開発による技術革新が必要です。
並行して、省エネ技術 ――海の技術を進化させるイノベーションに向けても様々な取り組みを進めており、例えば、できるだけ少ない燃料で船を運航する取り組みも高度化しています。代表例が、風力エネルギーを船の推進力に変える「ウインドチャレンジャープロジェクト」であり、これは、伸縮可能な硬翼帆を大型船に設置し、燃料消費量を減少させると共にGHG排出を大幅に削減するプロジェクトです。エンジンによる船の推進力に、自動制御される帆によって風力の利用をプラスし、燃料の消費量を大幅に抑制することができます。
また、様々な観点で情報技術の導入も進めており、乗組員の負荷軽減や安全性の向上が期待できる自律運航船の実現に向けた開発や、安全運航の更なる強化、運航効率の改善に繋がる船舶運航に関するビッグデータの活用と言った取組にも注力しています。
「安全」は当社の事業の原点にある概念で、商船三井のアイデンティティであると言えます。世界中の人々の暮らしと産業を支える大動脈として、絶えず安全で高品質な輸送サービスを提供し続ける。世界中で船が安全に航行でき、モノが確実に輸送できなければ、お客様からの信頼は得られず、事業の存続も望めません。当社の中で、安全運航を最優先する姿勢は変わることがありません。
運航管理についても、本社内にある安全運航支援センターには乗船経験の豊富なスタッフが24時間体制で勤務し、世界の大海原を航行する約800隻の船の安全を常時モニタリングしています。基本的にそれぞれの船の船長に全幅の信頼を置き、センターは各船長が現場の海域でベストな判断を下すために役立つ最新情報 ――今後の海気象のきめ細かい予測から海賊の出没情報までをリアルタイムで提供することで支援しています。
また、当社グループでは「MOL CHARTS」という6つの行動規範を定めていますが、その一つにSafety、すなわち「世界最高水準の安全品質を追求」と定めています。
商船三井は、海運ビジネスを通して世界の荒波に揉まれながら、大きなうねりの中で航路修正を繰り返してきた歴史を持っています。その意味からも組織として変化への対応力は高く、新しい課題に柔軟にチャレンジできる人材が揃っていると感じています。一方で、今後も成長を見込む世界の海運マーケットで競争していくには、これまで以上に、ヒトの力を質・量ともに高めていく必要があります。また、技術革新を伴う環境対応やこれまでに経験が薄い事業領域の強化につきましては、まだ社内に十分な知見やノウハウが蓄積されているとは言えません。
そこで、当社内の人材に適所適材にてより幅広い分野のビジネスにチャレンジしてもらいながら、広く外部からも専門性の高い経験を持つ人材を採用しています。先ほどお話しした海洋関連事業、洋上風力発電事業などの非海運事業の他、在来型を含む海運事業においてもキャリア採用の人材にご活躍頂けるフィールドが多くあります。また、コーポレート部門の法務や財務、或いはDXを担う人材についても、これまで以上にプロとしての力量を具備された方を必要としています。
例えば、LNG船事業は商船三井が強みとするビジネスであり、グローバル市場でトップの扱い規模を誇りますが、事業現場と深く関わりながら、エネルギー会社のお客様と中長期の契約を結ぶビジネスであり、グローバルなプロジェクトマネジメントの手腕が活かせる事業でもあります。このため、同事業や海洋関連事業では他業界でこういったプロジェクト管理を経験した人材やプロジェクトファイナンスの知見を持つ人材が活躍できる場が比較的多いのではないかと思います。
海運事業、非海運事業を問わず、大きな変化の中で挑戦し、世界で戦っていく事業ステージを迎えていますので、多様な経験値と専門的能力を持つ方々に私たちのチームに入って頂き、既存の社員と刺激し合う中で組織の新しい成長に繋げていきたいと考えています。
社員数約1,100名(社外出向者を除く)の会社であり、年商や事業の規模に対して人員規模は比較的コンパクトな組織です。本社内で何年か在籍すると社員同士の顔と名前は一致するようになります。その分、社員一人がカバーする業務範囲は広く、組織として一人の人材に対する期待値が大きい会社です。経営層と担当チームとの距離も比較的近く、時に、現場の意見を吸い上げて迅速に経営判断が下される風土も強みです。
事業部別の組織ではありますが、組織の枠を超えた連携やコミュニケーションが多いのも特徴です。これまでのところ、新卒入社組は入社10年間ほどで3部門程度をローテーションする形を取っていることもあり、また、近年は部門を跨るプロジェクトでの取組も増えており、部門間の壁は低いと思います。
商船三井グループの行動規範に「Accountability」と定めているように、一人ひとりが「自律自責」で仕事に取り組むことが求められます。待ちの姿勢ではなく自律的に動くことができ、成果に繋げていく人に向いています。勿論、部門を問わずチームで仕事を推進することが基本ですので、Teamworkが前提となります。
実際に入社すると、社内で「自律自責」という言葉をよく耳にする事になります。私自身の体験からは、自律とは「自ら考える権利があること」または「失敗する権利があること」だと思います。その代わり、失敗した時には「自責」として正しく反省する義務が生じる。つまり、その失敗から学ぶ義務がある。大切なのは、失敗に対して正しく反省して次の段階に繋げていくことであり、これを繰り返していくことが重要だと考えています。社内で活躍する人材には、そういった事が自然にできている者が多いと感じます。
商船三井では、入社後10年ほどかけて3部門程度で異なる経験をし、その後、自身の適性と能力を活かせる部門で活躍を目指すのが新卒社員のキャリアパスになります。ですので、私のように自動車船に特化したキャリアは非常に珍しいケースになります。
自動車船部門に来て4年目にロンドンに駐在しました。そこでは主に欧州からの完成車輸送を担当し、大西洋域での三国間輸送のために新たな航路を開設する業務に携わります。20代後半の若者が、現地では商船三井の自動車船部門を代表するような立場で、ダイナミックに変化するグローバル事業の最前線を一定以上の裁量で任せられました。日々、東京やロンドン、他の海外拠点のメンバーと議論しながら、まさに自律自責で新しい輸送パターンを作って収益を上げていく事に取り組む、刺激的な経験ができたと思っています。
入社14年目から、自動車船部門の予実算や船隊を整備するマネージャー職を担いました。市場ニーズの変化を予測して予算を立て、世界全体で100隻ほどの自動車船の航路配分を考えていく仕事です。必要に応じて新造船を発注したり、傭船(ようせん)を手配したり、市場縮小の局面では古い船をスクラップすることになるのですが、この時期は、丁度リーマンショックを境に世界経済・海運市場が激しく変化したタイミングでしたので、正に荒波に揉まれる日々でした。自動車船事業の将来の浮沈に直結する、スケールの大きい意思決定に関わることができたのは、身の引き締まるような経験でした。
そして2013年から5年間、タイの自動車船事業の現地法人に社長として赴任。同事業の東南アジア・オセアニア地域を統括する役割でした。また同時に、タイ国内の完成車の陸上輸送を担う物流会社の社長も兼務していました。特に物流会社では、私以外の150人は全員タイ人で、その殆どがタイ語しか通じませんでしたので、身振り手振りを交えながらお客様から預かった貨物(自動車)を安全に輸送する事の大切さを伝える事に腐心し、組織をマネジメントする経験を通じて、貴重な学びを得たように思います。そこでは、ヒトを介してヒトを動かすことの大切さと難しさも知りました。異文化で言葉も通じ難い環境でしたが、結局は相手に真摯に向き合う事が重要であり、組織を管理する立場で、何らかの決断をする際には、それを施す相手に対して誠実に対処してきたか、誠実であるかを自問し、それを一つの判断軸としていました。これは今でも人事の仕事に取り組む上での信条になっています。
先ほど、当社は事業部門間の壁が低く、部門を横断して連携しやすい風土があると申し上げました。これと同様に、キャリア採用で入社された方と新卒入社の社員との間の壁も存在しない会社です。異業界から入社されて2~3年もすれば、良い意味で、その人に前職での勤務経験があったことすら誰の意識にも上らなくなります。キャリア入社後に部長職に就いている人材も一定数います。
今、私たちは事業の枠を拡大しようとする変化の只中にあり、これまで社内に蓄積していない多様な経験や能力を持った人材に対する期待が大きく高まっています。言い換えれば、今の商船三井には、キャリア入社の皆さんが活躍しやすい環境があるのです。チャレンジ精神を持って自律的に働くことができる人、多様な個性を持ったチームのメンバーと力を合わせて事業を前に進め、新しい価値を生み出してみたいという意欲の高い人には、大きなやりがいを感じる会社であると確信しています。